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モノ様へ。

ちょっとお話が長くなりそうなので何度かにわけて載せることに致しますです。

携帯メールでもそちらのコメでも入りそうに無いのでここのコメント欄に。

もしパソコンのメアドなど教えていただけましたらそちらに送るようにしますのでご連絡くださいませ。
一応ペペウルで雨・・・・ではありますが、たぶんご希望とは180度くらい違う展開になりそうなorz

と、とりあえず序章をお届けします。
今日のコメント欄をご覧くださいませ。
 

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涙雨と想い人
煙るような雨の中、彼はだれもいない細い路地にある、裏口のドアの前で蹲って泣いていた。
声も出さず膝を抱え静かに、涙だけを流していた。
やがてふと、前にだれかが立ち止まる気配を感じて顔を上げる。
「これあげる」
黄色のレインコートを着た少女が、自分に向けて差し出した手にはピンク色の紙に包まれた飴がひとつ。
「甘味って優しいの」
そしてただ呆っと見上げてくる男の前でしゃがむと無理やりその飴玉を握らせすぐ背を向ける。
「それ、このポケットにいつから入ってたかわかんないやつだけど、たぶん大丈夫」
一度だけ振り返り、言わなくてもいいアバウトな一言を付け加え、そのまま白い雨の中に消えてしまった。
男はなんとなく包み紙をはずし、イチゴ味の飴を口に含むと、少し笑った。



ロックストンにアトリエを開いてからこっち、一生懸命に仕事を請けこなして来た成果が現れ、ウルリカへの個人的な依頼が増えてきた。
「個人依頼は面倒なのも多いけど、その分報酬も弾むから悪くないわよね」
ちょうど一仕事終わり、優雅にお茶を飲みつつウルリカが満足そうに笑う。
「依頼内容にだいぶ偏りが見られるけどねぇ」
なぜか爆弾の類が多い。
「マスターに聞いたけど爆弾工房って呼ばれてるらしいわね、うち」
北街にある爆弾工房。それがウルリカのアトリエの通称だ。
「ま、内容なんてどうでもいいのよ! 要は仕事が入ってお金も入ればいいんだから」
「確かにそうだけど、おねえさんはもうひとつ爆弾娘のアトリエっていう名前もあるの知ってるかい?」
アトリエの主本人の性格と評判のアイテムをかけての二つ名だが、あまり聞こえのいい名前ではない。
「上等じゃない! 特徴あるほうが覚えやすくていいのよ」
開き直り発言にペペロンはため息をつく。
ウルリカはもうすぐ17になるというのに、女らしさというか、しとやかさというか、そういうものがいっさい無い。
もちろんそれは本人の自由ではあるが、このまま突っ走ると将来どうなってしまうのかと苦労性のペペロンは心配になるのだ。
そんなとき、すっかり聞きなれたアトリエのベルが鳴った。
「ほら、またさっそくお客が来た」
ウルリカはカップを置き、嬉しそうに扉へ向かう。
「いらっしゃいませ!」
営業スマイルと共にドアを開け、前に立っていた青年を招きいれた。
「あの、ここではどんな依頼も請けてくれるって話を聞いて」
気弱そうな黒髪の青年は、ウルリカに伺うように聞いた。
「うちのアトリエに不可能って言葉は無いわよ!」
ペペロンは座ったまま、安請け合いをする主をすっかり諦めの表情で見ている。
「じゃあ、あの……、僕の恋人になってください!」
「は?」
青年の唐突な言葉にウルリカは聞き返し、ペペロンは目を丸くした。
「えっと、それはどういう……」
引きつってしまった笑顔をそのままに、とりあえず詳細を尋ねてみる。
「明日、田舎の両親が僕の店を見に来るんですが、そのとき安心させてあげたいんです! 父も母も手紙で何度もいい人が出来たのかとか仕事だけにかまかけてずっとひとりで寂しいんじゃないのかと言うので、つい返事に結婚を約束した恋人がいると書いてしまって。
そしたら今度来るとき会わせるって話になってしまったんです」
「それで私に、その恋人の役を?」
「はい。実際僕はこの街に来てから店を成功させるのに必死で親しい女性などだれもいなくて、ほかに当てがないんです。お願いできませんか?」
ぎゅっと手をつかまれその必死な表情にウルリカは戸惑う。
(うち、錬金術のアトリエなんだけど)
何でも屋と誤解されていないだろうか。
とにかく自分に演技など無理とわかっているウルリカは断ろうと口を開いたが、その前に青年の方が悲しそうに言った。
「ダメ、ですか? やっぱり無理ですよね、僕なんかの恋人役なんて……。すみません、切羽詰ってしまって」
「まぁ、その、演技自体が……」
「両親はもう年で、次はいつこれるかわからないし少しでも心を軽くしてあげたかったんですが騙すようなこと、出来ませんよね。
それにたぶん、今の僕を見れば恋人なんて出来ないこときっとすぐにわかってしまう」
俯いた青年の目からは今にも涙が溢れそうで、ウルリカは慌てて否定した。
「そ、そんなことないわよ! 確かにちょっと弱そうで暗くて後ろ向きだけどきっとそれだけじゃないだろうし!!」
(おねえさん、フォローになってないよ)
成り行きを見守りつつも、ペペロンは心の中で突っ込む。
単純なウルリカのことだ。この後の展開は容易に想像出来た。
「じゃあやってくれますか!?」
「え?」
(やっぱり)
なんだかんだで人の良いウルリカに断ることなど出来ないのだ。
今度は希望に満ちた瞳で見つめられればそれが止めだった。
「や、ります」
あははと乾いた笑い声を発しつつ、ウルリカはもう頷くしかなかった。



「そういえば、名前聞いてなかったわね」
「ウェイン、といいます」
ウルリカに恋人役を頼みに来た無謀な客ウェインは、茶色い髪に茶色の瞳の細身の青年で特に突出した容姿ではないが、身長だけは普通より高めだ。
「じゃあ改めてよろしくウェイン。ウルリカよ」
「はい、よろしくお願いします」
仕事として請けてしまった以上詳しく話をしようとテーブルに招きお茶をだす。
給仕はペペロンの役目だ。
「それにしても明日ってえらい急ね。ろくに準備する時間もないじゃない」
責めるわけではなく、現状の厳しさを言っただけだったが、ウェインはすっかり恐縮してテーブルにこすり付けるように頭を下げた。
「ほんっとうにすみません! 来るって手紙が来てからずっと断ろうとしてたんですが、どうしても聞いてもらえなくて最終手段に」
「わかった! わかったから頭上げて」
下手に出られることに慣れていないウルリカは、どうもこの青年相手だといつもの調子が出ない。
「えーっと、それで。一応恋人なわけだし多少は融通利かせないとよね。なにかこうして欲しいって希望ある?」
当たり前の提案にも、ウェインは首を横に振った。
「いえ、そんな、恋人だということだけを念頭に、普通に接していただければ……」
「おにいさん、それはやめたほうがいいよ」
「あんたは黙ってなさい!!」
一緒にテーブルについて話を聞いていたペペロンが意見するが、ウルリカに叩かれる。
「んー。でもまぁそうねぇ。さすがにいつものまんまじゃ気分でないし演技以前の問題になりそうだから、ちょっと服装だけでも変えようかしら」
「そこら辺はおまかせします。ただ、えっと、手紙に書いた設定なんですが」
「うん」
「僕は小さいですが輸入雑貨店を営んでまして、そこの客として来た女性とお付き合いするようになったことになってます。知り合ってすぐ僕が告白をして一年になると。あと、プロポーズしようかどうしようか悩んでいる最中ということも……」
「結構細かい設定ね……」
しかもなんとなくリアリティがある。
「す、すみません」
「だから、いちいち謝らなくていいの!!」
「気持ちはわかるけどね」
またしても突っ込まずにはいられなかったペペロンを今度は無言で殴る。
「わかったわ。逆にそういう設定があるほうがやりやすいし。その両親は明日何時に着くの?」
「昼過ぎに南門外の馬車駅に迎えに行く予定です」
「オッケー。いきなりは無理だから明日早めにあなたのところに行くわ」
そして店の名前と場所を聞いてメモをする。
「父と母は数日滞在予定ですが、きちんといつまでとは決まっていません。なるべく早く帰ってもらうようにするのでよろしくお願いします」
「まかせなさい。私に出来ないことなんてないんだから!」
最初はしぶしぶだったものの、単純でノリのいいウルリカはこの短時間ですっかりやる気になっていた。
「はい、頼りにしています」
そう言って初めて笑ったウェインの笑顔を見て、「あ、すごく優しい感じでいいかも」と、情けなさそうとしか思っていなかった明日からの恋人にやっと好印象を持ったのだった。




「で、ペペロンは良かったの?」
「え?」
ウェインを見送って開口一番、ウルリカはそう聞いた。
「だってさ、恋人役だよ?」
振り向いたウルリカはいたずらっぽく笑っていて、ペペロンは苦笑した。
「うーん。おねえさんは優しいけど、優柔不断じゃないからね」
「どういうこと?」
「揺るがないってことさ」
そう言いながら、出ていた茶器を片付けるが、ウルリカは不満そうに頬を膨らませた。
「ちぇー」
どうやら答えが気に入らなかったらしい。
「おねえさん?」
「嫉妬とかないわけ?」
つまりは妬いているといった類の言葉を期待していたのだろう。
そんな彼女が本当にかわいくておかしくて、手にカップさえ持っていなければ抱きしめたいところだ。
「オイラが言わなくてもわかってると思って」
それは自分から求めた言葉のはずなのに、ウルリカは顔を赤くした。
あるま 2010/07/07(Wed)15:57:56 編集
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